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長田 典子 教授
お客様情報 | 関西学院大学 理工学部人間システム工学科 長田研究室 長田 典子 教授 |
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長田先生の研究室では、感覚的な主観を科学的手法により価値を探る「感性工学」により、モノづくり現場の支援を目的とした研究を行っています。 当社とは、触感プロセッシング技術を用いた電子機器「触感計測装置」の開発を、共同で進めています。 |
-長田教授の研究内容について、ご紹介をお願いいたします。
長田 教授:私の研究室では、“感性”という目に見えない価値を科学的データに基づき数値化することによって、モノづくりやサービスづくりをサポートする研究開発を進めています。
たとえば、「美しい」という感じ方は人それぞれ違いますよね。こうした主観を科学的に数値化することにより、多くの人が美しいと感じる輝きのある化粧品を開発したり、自動車の外観デザインの嗜好特性を分類したりと、感性と工学の融合で新たな社会価値を創出することを目的とした研究を行っています。
こうした研究を「感性工学」といい、日本で生まれ世界に伝わった新しい技術工学です。現在、世界各国の大学などでも研究が進んでおり、英語では「KANSEI Engineering」と、”感性”はそのまま訳されています。
多様化が進む現代社会において、一人ひとりの個性にあわせたモノやサービスが求められる時代ですから、感性工学も製品開発の現場で重視され始めています。私たちは、工学、心理学、脳科学など、さまざまな角度から人間の感性をとらえて、新しい価値の創出を目指して研究に励んでいます。
-アポロ技研との出会いは、触感プロセッシング技術に関する研究でした。
長田 教授:触感をデジタルデータ化して計測できる装置をつくれないかと、4年ほど前から研究しています。実は、モノづくりの現場では「触感を計測したい」というニーズが多く、化粧品や素材、自動車などさまざまなメーカーから要望をいただいていました。
そこで私たちは、メーカーと共同研究をさせていただきながら知見を積み、装置に触れたときの感覚を数値化する「触感計測装置」を独自開発したのです。
ただ、私たちはあくまで研究者ですから、製品をつくるための原理をまとめ有用性や信頼性を高めるところまでが仕事です。装置の製品化までは至りませんでした。
そんななか、「ぜひ、うちで製品化したい」と声を上げていただいた会社があったのです。それが、アポロ技研のグループ会社であるフジプリグループ㈱の松本さんでした。ちょうど、原理的に触感を測定できることが証明できたところで、製品展開をしたいという申し出を受けましたので、「これはありがたい」と共同開発をお願いしたのです。
-フジプリグループ㈱を通じて、アポロ技研のことを知られたのですね。共同開発を始めるにあたって、長田教授には当社まで見学にお越しいただきました。
長田 教授:最初にアポロ技研を伺ったとき、シミュレーターもたくさんありましたし、なにより対応いただいた担当者が経験豊富なベテランの方で、ここならお任せできると思いました。
最終的にアポロ技研に依頼する決め手となったのが、パッションですね。当校の学生を見ていても、責任をもって最後までやり遂げる意志や、あきらめない根性を持った生徒じゃなければ、研究開発は続きません。アポロ技研のスタッフにお会いして、製品化したい、世に出したいという「やる気」を感じたことが、依頼させていただいたいちばんの理由でした。
-製品化に向けて試作品をつくるなかで、課題などは感じられましたでしょうか?
長田 教授:私たちより、アポロ技研のほうが大変だったのではないでしょうか。ベースとなる回路は私たちが設計し、それをもとにアポロ技研のほうで何度も試作品を製作していただきました。そのなかで、小さな電圧を増幅させる基板をどうやって作るかとか、増幅することで生じるノイズをどのように抑えるかとか、どの素材の部品を使えば求める性能が得られるかなど、試行錯誤を繰り返されていたので、いろいろご苦労があったと思います。
-完成した試作品の触感計測装置は、展示会で披露しました。
長田 教授:2019年に日本科学未来館で開催された「ぴったりファクトリ」という展示会で紹介しました。来場者に、試作品の触感計測装置を試していただきアピールしながら、そこで得たデータから改良点などを模索しました。
-その後、反響はありましたか。
長田 教授:ある化粧品メーカーから、試作品の触感計測装置で計測したいものがあると申し出がありました。化粧水をリニューアルするにあたり、「拭き取れた感」とか「使い続けたい感」といった肌を撫でたときの感覚を科学的に数値で示し、商品価値を高めることが目的です。
化粧水で肌を撫でたときの感覚を数値化するなんて、今まではできなかったことです。それが触感計測装置を用いれば、撫でたときの振動パターンを周波数領域で示すなどして、「拭き取れた感」「使い続けたい感」を計測することが可能になったのです。そのデータをもとに製品改良を進め、心地よい感覚をさらに高めた化粧水のリニューアルに結び付けました。
-今後のアポロ技研とのかかわりについて、教えてください。
長田 教授:触感計測装置の本格的な製品化に向けて、引き続き、取り組んでいただきたいです。新型コロナウィルスの影響で開発がストップしてしまいましたが、それが落ち着いたら製品化に向けて進めていただきたく思います。
私たちの研究は、「このアルゴリズムにしたら別のユーザーを獲得できる」とか、「デザインや塗装量をこうしたら魅力的になる」といった、企業の生産技術を提供することが多いんですね。
今回のような独立した製品開発を進めることは滅多にありませんし、市場からのニーズも高い分野ですから、一緒に試行錯誤しながら製品化されることを期待しています。
-触感計測装置の製品化を目指して、引き続き協力をさせていただきたいと思います。このほかの研究分野で、今後の目標はありますでしょうか?
長田 教授:私たちが研究している感性工学は、今後、企業のプロダクト開発において伸びていく分野だと確信しています。一方で感性工学は歴史的に浅く、これから発展していく分野でもあり、まだまだ研究の余地が十分にあります。プロダクトやサービスの開発に貢献できるよう、一つでも多くの「感性の価値」を創出していきたいですね。
そして、装置の開発が必要なことがあれば、アポロ技研にもご協力いただけると幸いです。
-今回は取材を受けてくださり、ありがとうございました。
長田 典子(ナガタ ノリコ) 教授 プロフィール
《所属》関西学院大学 理工学部人間システム工学科
《略歴》
1983年京都大学理学部数学系卒.同年三菱電機(株)入社. 応用機器研究所,産業システム研究所,先端技術総合研究所において,色彩情報処理,感性情報処理の計測システムへの応用に関する研究に従事. 1996年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了. 2003年より関西学院大学理工学部情報科学科助教授,2007年教授. 2009年米国パデュー大学客員研究員. 2013年感性価値創造研究センター長. 2015年革新的イノベーション創出プログラム「感性とデジタル製造を直結し,生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造拠点」サテライトリーダー.2020年感性価値創造インスティテュート所長. 博士(工学). 専門は感性工学,メディア工学等. 著書「感性情報処理」(共著)他. 情報処理学会,電子情報通信学会,電気学会,IEEE, ACM各会員. 2013年文部科学大臣表彰科学技術賞(科学技術振興部門),2014年グッドデザイン賞受賞. 2008年~2016年まで兵庫県教育委員.
ご希望に合わせて、開発、基板設計、製造などの複数の工程にまたがるサービスをフレキシブルに提供いたします。
コストや納期などの制約がある中でプリント基板の品質を確保するには、シミュレーションによる検証が大きな助けに。